2週間ほど前から、この日に東京へ行くことは決めていた。
前日に新潟県の参議院選挙投票を済ませて、夕食をピーチクパーチク、東京までの行き方を考えていた。
新幹線。高いけど早い。でも往復で16000円かぁ。
高速バスを調べよう。うん、前日の予約は厳しいな。やっぱり新幹線かー。どうやって駅まで行こう。そういえば家の近くにバス停がある。
越後交通のホームページに記載されている時刻表の見方が今ひとつわからない。休日はどれが動くんだ??
万が一、時間を間違えてバスに乗れないことを想像するだけで恐ろしい。よし、駅まで車で行こう。いちばん安心いちばん安全。自分の好きな時間に家を出れる。駅の駐車代が心配だけど…。お、一日停めても2,000円! いいでしょう!
何時の新幹線に乗ろう。8時台、9時、10時… ゆっくりおきたい….でも日帰りだし時間がもったいない。時間をうまく使わないと命取りになる。とまらない時間に抵抗するにはやっぱり早く起きるしかないんだ。ほんとうに心苦しいけど、はやく起きて8時の新幹線にのろう。
あさです。
6時半に設定したアラームを、身体が勝手にとめて勝手に寝ている。
ふと目が覚めたその一瞬で絶望を覚悟し、ケータイのロック画面をチラッとのぞきこんでみる。
7じ45分。家を出る時間だ、やっちゃった。
いや待て、これウルドゥー数字だから、見間違えてるだけかもしれない。
ケータイのロックを解除して、ホーム画面左上のアラビア数字をみつめる。6じ45分。やたーーーー‼︎セーフッ。セーフッ。セーフッ。ウルドゥー数字の「6」はアラビア数字の7と同じ形なんだったそうだった。
予定より5分おくれて家をでる。駅に向かいながら、駅の駐車場じゃない方が駐車代が安いことに気づく。途中でコインパーキングを見かけては「ここにとめて駅まで歩けばいける…?」と考えるけどダメダメ。わたしはギリギリの時間に家を出ているんだった。まだきっぷもお茶もティッシュも買ってないのに、あと10分で新幹線が出発する。
駅に着いてビックリ。駐車の最大料金が3250円て書いてある。1250円の値上がりかぁ。時間がギリだからうけいれるしかない。
もっと余裕を持って家を出ていれば安いところに停めれたのかと思うと、わたしみたいなギリギリはお金で時間を買っているのか?とほほ。
買ったきっぷは自由席。窓際の空席をみつけて、うしろの人に声をかける。
「スミマセンうしろチョットたおしてもイイデスカ?」
30代と思われる女性がスマホから顔をあげて、おどろくほど爽やかに 「どうぞ(ニコっ♡)」 っとゆってくれた。
くうーー。
すばらしいな。わたしも「すみません(ニコっ♡)、背もたれを倒してもよろしいですか?(ニコっ♡)」って言えるようにならなくちゃ。どうして新幹線の背もたれは直角以下、鋭角がデフォルトなのだろう。
席が混んできて、浦佐あたりで乗ってきた40代のほっそりとした女性が、わたしの隣の席がポツンと空いているのを見つけて、申し訳なさそうに(なぜか)席につき、あの鋭角の背もたれをたおさずに厳しい姿勢を保っている。後から座るほうが気まずいのはなんでだろう。はやく座席をたおして楽になってほしい。
声をかけようか一瞬まよったけど、余計な気遣いな気がしてやめた。それに頭に浮かんでくる言葉がどれも偉そうだった。
さっきから膀胱がくるしいのだけど、隣の座席をふたつもヌタヌタとすり抜けるストレスには勝てない。
大宮まできた。車窓から眺めていた田舎の風景がいつのまにかびっしりの住宅とビルに変わっている。
神様がテトリスでもしたかなという具合に、きっちり建物がつまっている。建物同士の間にほんの気持ちばかりあけられた隙間を、人が歩いている。 人間は神か?
東京駅に近づくにつれて席が空き、わかれて座っていたらしい子どもが隣の女性のそのまた隣に座った。そうか。隣の女性はお母さんだったんだ。子どもがやってきてから、お母さんは気が抜けたように背もたれに身をまかせている。
子ども(男の子)は相当電車が好きみたいで、車窓から見える電車を指さして「けーひんとーほくはあお!けーひんトーホクは青!」と忙しなく口を動かしている。わたしも男の子の声に耳を澄ませて車窓を眺めていた。
男の子と席、代わってあげようかなあ。ちょうどいい、席を代わるついでにトイレにいこう。というかトイレに行きたいから席を代わろう。そう思って立ち上がりながらお母さんに声をかける。
「すみません、アノ、お手洗い、いきたくて、、、」ちがうちがう!そうじゃない!席を代わってあげるんデショ!!
3列シートを抜けて通路に出るまでちゃんと隙間があるのにわざわざトイレ申告してる変な人!いま変な人!
お母さんは ん?どうぞ?みたいな顔をしている。
「あっ,,,エット, 僕こっち。よければこっち➡︎、外、いきませんか?」頭でシュミレーションしたのと全然違う日本語が出てきた。
男の子は首を横にふった。
本音が先に漏れたのがダメだったのかなあ。
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